KOGEIマガジンVol.13「工芸建築」展

市民がボランティアライターとなり取材を行う「KOGEIマガジン」第13回目の今回は、11月7日(火)〜11月19日(日)にわたり金沢21世紀美術館にて開催していた「工芸建築」展と記念トークのレポートをお届けします。11月18日(土)に行われた、秋元前館長と11名の参加作家による記念トークでは、工芸建築へのさまざまな解釈や、今後期待される新たな可能性について議論が交わされました。
文章・写真:古源桃子(金沢21世紀工芸祭ボランティアライター)


―はじめましての「工芸建築」

展示室の中に入ると、工芸建築にまつわる言葉が書かれた垂れ幕がいくつもぶらさがり、中央には三角屋根の青い小屋が光に照らされています。奥へ進むと町家を工芸的アプローチでリノベーションした作品から、麻紐に漆を塗って固めた、部材として利用できる作品までさまざま。はて、工芸建築とはなんでしょうか。実は、この数年間で金沢まち・ひと会議というグループから発信されてきた言葉であり、今まさに工芸建築とは何かを模索しているところです。本展示は、11名の作家各々が解釈した工芸建築であり、「こんなことができますよ」という作家からの提案。第0(ゼロ)章がはじまったところなのです。

―コトを包みこむ、うつわとしての機能

工芸建築展に在廊していた、参加作家の宮下智裕さん(金沢工業大学環境・建築学部 准教授)にお話をうかがうことができました。作品名は「うつわ」。竹チップを鉄のうつわに入れ、漆を塗って耐久性を高めた作品です。大きなくぼみがあり、人がすっぽりと入れます。竹チップは発酵すると40℃の熱を帯び、その熱が鉄を伝わってくぼみの中がほんのり温まるという仕組み。温かい機能性を備えながら、くぼみに入る使い手のストーリーとともに漆の経年変化も楽しむことができます。「現代は縁側のように用途が曖昧な空間が少なくなってきているため、本作品をバス停横などに設置し、人やシーンによってさまざまな使い方ができれば」と話す宮下さん。工芸建築は使い手のコトを包み込む、うつわのような機能があるのですね。

―金沢から発信する「工芸建築」のこれから

11月18日(土)の記念トークでは秋元前館長が進行役となり、11名の参加作家と工芸建築について食事を交えながら語らいました。宮下さんのように工芸建築をうつわとして考える作家の他に、麻紐やトタン板に漆を塗れば建築物の耐久性を高める部材になると提案する作家も。一方で秋元さんは、ひとつひとつ異なる工芸がもつやわらかさを活かしながらも、工芸建築が3Dプリンターなどの現代の技術をさらに上回る、尖った存在になることを望んでいるようすでした。今回の展示を受けて、来年はもう一歩前進して工芸建築の可能性や実現性を探っていきます。

もし、うつわや部材として町中に工芸建築が広がれば、生活のなかで工芸が馴染んでいく変化を見ることができます。自然と工芸に触れる機会が生まれれば、実際に手にとって使ってみたいと思わせられるかもしれません。ただの建築ではない、機能性もあたたかみもある工芸建築が秘める新たな可能性が実現していく過程を、ここ、金沢で一緒に見守っていきませんか。