KOGEIマガジンVol.3 金正逸さん/李一烈さん/金至児さん

市民がボランティアライターとなり作家やアーティストに取材を行う「KOGEIマガジン」第3回目の今回は、金沢美術工芸大学の先輩後輩で韓国がご出身というご縁のお三方、金 正逸さん、金 至児さん、李 一烈さん。お三方の工房をお尋ねし、今回の工芸展や金沢というまちのこと、浅野川吉久にて行われる3人展についてお話を伺いました。
Ju:金 正逸さん / l:李 一烈さん / Je:金 至児さん

文章:浜田 りえ(金沢21世紀工芸祭ボランティアライター)

金 正逸(Kim Jungil)
2002 金沢美術工芸大学大学院博士課程修了/同年博士号(芸術)授与

李 一烈(Lee Ilryul)
2011  金沢美術工芸大学大学院工芸研究科博士課程修了・芸術博士学位取得
2007  金沢美術工芸大学大学院工芸研究科修士課程修了

金 至児(Kim Jeeah)
2007 金沢美術工芸大学大学院美術工芸研究科修士課程修了

ーめぐる、かんじる~僕らが金沢に居る理由~

「金沢」というまちとの出会い、その魅力について教えてください。

 

Ju ぼくは30代のときに新しいものを得たいと来日し、東京で2年過ごしました。縁があって金沢で陶芸を学び、大学を卒業するタイミングにちょうど専攻(院)ができて進学したのです。日本へ来てもう23年になります。金沢は良い材料が揃いやすいですしギャラリーなど発表の場があるので、つくづく環境の良さを感じます。工芸作家の活動の場としては、全国一じゃないかな。人数としては他市の方が多いけれど、密度が濃いと思います。

 

l 陶芸を自国で修めてから、さらに広い世界を見たいと思って、日本へやって来ました。大学の授業(第2外国語)で日本語を選択していたことも理由の一つです。はじめは東京で日本語学校に通い、その後日本国内の陶芸に縁のあるまちを巡りました。そして金沢へ先輩を訪ねた際、今の恩師と出会ったのです。その先生が大学の構内で、韓国語で挨拶してくださって、僕の居場所はここだという予感がしました。金沢のまちには出会うべくして出会ったと思っています。

 

Je 私は、新しいものを作りたくて日本にやってきました。当初は言葉の壁もあり苦しい思いもして、いつも泣いていました。でも、たくさんの方に助けてもらって、今の環境と作品にたどり着きました。新しいものを作り出すというのは大変難しいですし、まだまだ研究中です。一烈さんと同じく日本にきて14年近くになりました。

 

ー枠にとらわれない表現を紡ぐ

三者三様の制作方法と原料ですが、もとはひとつの「陶芸」。今回の3人展を通じてお三方がそれぞれ期待されていることをお聞かせ下さい。

 

Ju ぼくらが制作をしていると「青磁」なのか「白磁」なのかとアイデンティティを重ねて求められがちです。しかし、国が持っている色や地域が持っている何かしらの特徴といった違いを作り手側はあまり気にしない時代になりました。私たちのような外国人でも金沢というまちに溶け込んでいると思うのです。純粋に作家個人の表現、個性として見てもらえたらと思います。

 

ll 韓国の焼き物といわれると「青磁」をイメージする方がすごく多いのですが、焼き物はそれだけではありません。作品のなかに線のながれや造形について、偶発的に現れるものを感じとられる方はいると思う。それらを実際どんな風に受け取ったのか、直接聞いてみたいと思います。

 

Je  私がつくりたい「新しいもの」というのは、韓国の陶芸という枠にとらわれないもの。現在制作している作品は、どこか不気味さもありますが、生命をテーマにしているものです。今回の催しでの「回廊」すること、「めぐる」ことが、いつかの私がそうであったように、人と人が巡り合い、助け合い、新しいものを生み出すチャレンジの場になるのではないかと楽しみにしています。

 

金 正逸さんの作品。ワイヤーを私用して土塊から切取った面が美しい。腰の高さ位まである作品は軽量化のため中をくり抜いてあります。

 

工房にある大きな釜で焼き上げます。李さんの作品は、造形の際に人工的に熱や力を加え変形させるのだそう。

 

金 至児さんの作品。つやつやとして今にも動き出しそうな表面。一つひとつの粒が意思を持って迫ってくるようです。

 

「市内外を問わず、海外などさまざまな方に見てほしい」と話す正逸さん。「金沢のもつ工芸作家の活動環境の良さを活かして、情報が交差したり、広がっていってほしい」と同調する一烈さん。「こうした催しが金沢で行われることで、工芸に関わりのない方との交流のきっかけになれば。モノづくりをする人、しない人の垣根を超えてほしい」と続けてお話しになっていました。「刺激し合い、助け合いながらに工房で作家活動しているのですね」と問うと、「助けてもらってるのは私の方です」と微笑む至児さん。とても優しい笑顔が印象的でした。

 

付き合いは長いけれど今回が初めてだという3人展。器と造形物を出展され、期間中はできるだけ在廊されるそうです。正逸さんのどっしりとして包容力のある雰囲気、一烈さんの実直で誠実そうな面持ち、至児さんの可憐で柔和な印象がそれぞれ重なるような作品の数々をご来場の上、ぜひご覧ください。

 

イベント詳細はこちらから

http://21c-kogei.jp/contents/kogei-kairo/id/1210