金沢みらい茶会|平澤宜正さん|EXHIBITION2〜茶の湯という営み〜
平澤宜正さん
40年前に養子として金沢に来ましたが、以前、茶道隆茗会の茶会では水屋にお酒が必ず用意されていたようです。時には宴会のほうが盛り上がってしまって――ということもあったようです。お茶事は懐石をいただいて濃茶、薄茶と順に楽しむものですが、男性はとりわけお酒を抜きにお茶事を語れないという部分は、大きいのではないでしょうか。
お茶事では句を所望されることもありますし、金沢では昔から謡を習う方も多いですよね。金沢という街は、どれだけ習い事をしておかなければならない土地なんだと、金沢に来た当初は驚きました。どれも一朝一夕には身につかないことです。
かつてのお茶席は、文化を融合しながら「総合的に遊べる場」だったのではないでしょうか。特に金沢は遊びの文化が複合的に重なっており、ひと昔前は旦那さんたちが上手に遊んでいたと聞いています。茶道の心得のある芸妓さんにお点前をしてもらったり、謡があったり、お茶席でなくても別の間で芸妓さんの芸を見たり、三味線を聞いたり。お茶事でそうした豊かな時間を楽しんでいらっしゃったのではないでしょうか。
お茶事では道具の取り合わせはもちろん、懐石と酒宴をどうするかと考える楽しさもあります。また、通常の茶会で使う倍のお道具が必要になりますから、その分、楽しむ範囲も広がります。必然、「あれもこれもほしい」というふうになってしまいますが、そうしたら仕事をがんばって働こうというふうになるものです。そうやってお客様の求めるお道具をわたしたちが探し出し、それを買っていただけることは、まさに「美の共有」。そういう部分が、この仕事の魅力でもあります。
月心寺で催される茶道隆茗会の月釜では、歴史あるお道具を意識的に使っていらっしゃるから、金沢にはそういったお道具の良さを知る方が多いように思います。金沢は人口に対してお道具の業者が多いですし、「そこで釜をかけるならこれくらいのものを」という意識が高く、いいお道具をお持ちの方も多いと思います。父親からよく聞いていたのは、茶道隆茗会では、父親が若い頃は年配の方に道具をどれだけ知っているかをよく試されたと言っていました。
13名の男性によって構成される楽友会に所属しておりまして、一年に一度、持ち回りで釜をかけます。楽友会で思うのは、「こうすることが間違い」ということは、ないということ。楽友会では、すこし意外性のあるアイデアが好まれるように思います。たとえば水盤のようなものに花が生けてあったり、はたまた「これは茶碗? それとも火入?」というようなものが出てきたり。「発想力の取り合わせ」がなんとも言えず楽しいですね。
楽友会は高価な道具を使う会ではなく、趣向を凝らすことを大事にしています。ある時は、各人にお盆と漆が用意されて、それぞれに絵を描いたり、半紙と筆を持ってきてみんなで即興で掛け軸を作ったこともありました。そんなふうに、お道具をみんなで作る楽しみもあるんです。世の中に一つしかないものが生まれる喜びもあります。茶の湯の中で「いかに遊ぶか」を考えることも必要かなと思います。
戦後は女性がお稽古ごととして茶の湯に親しむことが増えました。しかし、女性のみなさんの茶の湯というものは、どちらかというと「お勉強」の側面が強いように感じます。お道具を扱う我々としてはもっと茶の湯を「楽しんでほしい」と思っています。
茶を切り口に同好の志で遊ぶということ、つまり道具談義も含めて、「お勉強」ではなく、あくまで「楽しむ」ということを大事にしたい。本来、茶の湯は和やかなもの。忙しい現代の男性の方にも文化を楽しむ遊びとして、もっと茶の湯を愛好する方が増えるといいなと思います。