金沢みらい茶会|髙橋 勇太さん|EXHIBITION2〜茶の湯という営み〜
インスタ茶道部 部長
髙橋 勇太さん(たかはし ゆうた)
茶道を習うきっかけは、二十歳のときのアメリカ旅行でしょうか。そのときにふと、外国の方と日本人とのふるまいの違いに気づき、日本人的な感覚が自分の中にあることを実感しました。すると「急性愛国病」のようなもので、もっと日本のことを知りたいという思いに突き動かされました。そこで、まずは何か日本ならではの習い事をしたいと思ったのです。
大学では地域文化史を学び、生まれ育った金沢には茶道も、能も、工芸もあるということにあらためて気づかされました。このとき初めて、本当の金沢に出会ったような気分でした。「茶の湯に興味がある」と教授に相談したところ、平木孝志先生を紹介していただいて、大学卒業と同時に遠州流に入門しました。初めて茶道に触れて思ったのは、素直に「かっこいい」ということでした。今でもそう思っています。
二十五歳の時に、全くの独断で、母校である金沢学院大学の在校生、卒業生や先生方を巻き込んで、みなさんにお道具も作っていただき、お茶会を実現することができました。それまではお稽古として親しんできた茶道でしたが、初めて人を招き、茶会を組み立てた喜びは大きかったです。
それからは作家の友人を通じて、ギャラリーの方から茶会をしてみないかと声をかけていただくことも増えました。そうした活動を通じて、茶の湯を日々の生活の中にしっかりと据えたいという思いが強くなっていきました。自分自身のために茶を点てるということ、自分をもてなすことの大切さを説いた武者小路千家第十五代家元後嗣・千宗屋さんの著書にも感銘を受けました。自分もそれを実践し続けるためにインスタグラムを活用し、二〇一四年一月一日から毎日欠かさず、お茶を点てて写真を投稿しています。もちろん出張や旅行先にも茶箱を持っていきます。
ほかにもインスタグラムを通じて、ワシントンで日本文化を学んでいるという大学生から、ある日メッセージが届き、金沢に来るというので、お茶でもてなしたこともあります。二〇一七年に「インスタ茶道部」をインスタグラム上で立ち上げてからは、流儀を気にせず、気軽にお茶を楽しむ人たちとの交流がどんどん生まれています。
もともと身内に茶道経験者がいたわけでもなく、自分の意思で茶の湯の世界に飛び込んだ身としては、長く茶道をされている方が無意識に求めてくる常識のようなものに、実はすこし違和感を感じていました。また、僕はアパレルの仕事をしていますが、同業者や美容師の友人などがお茶に興味を持っても、なんとなく近づきがたいと思う人が多いというのも気になっていましたが、インスタグラムを通じてライトなユーザーや海外向けに発信し続けるうちに、SNSの力でフラットにお茶に興味を持つ人たちがつながっていくのが楽しくて、やりがいも感じています。
長く勤めていた職場を辞め、ウラジオストクからパリまで、茶箱を持って旅をしたこともありました。資金はクラウドファンディングで集めました。たくさんの方からの善意に涙が出ました。ちゃんとお菓子も日本から準備していって、行く先々でお茶を点て、出会う人々に飲んでもらいました。みんな楽しんでくれたし、おいしいと言ってくれましたよ。貴重な経験でした。
おととしから築百年の町家に住んでいます。信頼の置ける建築家の方に改修していただき、一間床のある座敷に炉を切って、この空間を『TEA BASE 白澤(はくたく)』と名付けました。一般の方に、お茶に気軽に親しんでいただく場にしたいと思っています。僕が作りたいのは、茶の湯の「二部リーグ」みたいなものです。ここで、自宅でお茶を楽しむきっかけを提供し、もっと学びたいと思う方には、さらに金沢のすばらしい先生方にしっかり習っていただく、そんな流れも作ることができるといいなと思っています。
茶の湯には、きもの、茶碗、お菓子など切り口がたくさんあります。そして、金沢はすばらしいお道具が揃うだけでなく、古いものと新しいものが自然に共存しています。それは金沢で茶の湯を楽しむうえで大きな魅力だと思います。
茶の湯になぜ惹かれるのか――常に謙虚になれるところが好きです。自分が清らかな存在になれるような気がします。お客様をお迎えする準備やお点前、何度も頭を下げる所作、そのすべてが尊く、自分が戒められるように感じるのです。