金沢みらい茶会|藪 俊彦さん|EXHIBITION2〜茶の湯という営み〜
能楽師宝生流シテ方
藪 俊彦さん(やぶ としひこ)
大学に入った頃、佐野正治先生について謡のお稽古をするようになって、先生のお宅で茶室開きがあるということで、お招きいただきました。懐石も入ったもので、小間でゆったりと楽しませていただきました。その時に「お茶の世界とはこういうものなのか」と感激しまして、それでは習ってみようとなったのです。お弟子さんにも裏千家の教授の免状をお持ちの方が多かったものですから、小松や輪島など各地に出稽古に行く度に、お弟子さんに茶道を教えていただいたりもしました。
そのうちに蓮寺をご紹介いただいて、謡のお稽古の帰りに寄っては、お道具の話を聞くようになりました。そのうちに自分でも茶会ができればと思うようになり、茶室と庭をしつらえて、少しずつお道具も集めて、立派なお道具というわけではないですが、お茶事もできるようになりました。
こんな庭がいいな、こんな蹲(つくばい)がいいなと考えていたら、いつの間にか庭が三つ、茶室が三つもできてしまいました。最初の茶室は、欄間のある十二畳の広間に炉を切りました。その次は能舞台を作る時に部屋を改造して茶室にしてしまいました。その後に、もっと侘びた雰囲気の小さな茶室がいいなと思って、舞台に隣接して茶室を作りました。
最後の茶室は完成までに二十年の歳月がかかっているんです。煤竹(すす)を集めて天井を組み、珪藻土の壁に煤を塗りこみ、雪月花をテーマにして、能の世界も取り入れています。
初めて催した茶会では、お茶の先生ばかりをお呼びして、自分で茶杓を削りました。懐かしいです。わたしが茶事をする時は、能の曲を主題にして道具組みを考えます。能には導入、展開、キリという「序破急」があります。お茶の世界にもあてはまると思います。茶事では、席入りが「序」になり、主題がわかるような道具立てをして、本席は「破」として「そういうことだったのか」、「いや、ちょっと違ったな」などお客様にいろいろ考えていただくような道具立てを意識します。お茶を点ててお客様と話をする時が「急」。最後にそのテーマの曲を謡って終わります。
ほかにも小松で百年以上の歴史ある微妙会や、蓮寺でも月釜をかけさせていただきましたし、兼六園のお茶室や、茶道隆茗会でも何度か釜をかけさせていただきました。
若い頃はこういう道具立てでやろうと思っても、やはり足りないものが出てくるので、そういうときには作家さんに作ってもらったりもしました。能の曲から情景をイメージして、作家さんに相談をしながら、自分だけのお道具ができあがるのはうれしいものです。
お茶会は亭主のほうが楽しいですね。能舞台と同じで、まるで亭主が登りつめる劇場のようです。こんな能を舞いたいと毎回稽古をして、やっと舞台に立てる、そんな雰囲気がお茶会にもあるように思います。
お茶事はなかなか頻繁にはできませんが、日々お軸を掛けたり、花を生けたり、お庭を眺めながら茶室でお茶を点てていただくことを大事にしています。思い立ったときに、一日一服は必ずいただきます。そんな時間も、なんともいえず心地よいものです。