趣膳食彩 vol.1-2 浅田久太(浅田屋) × 石黒太朗(石黒商店)
金沢の大事な工芸の支え手の1つに、料理屋があります。
彼らは代々道具・古美術を所有し、食事の器や空間の中で使い続けてきました。それを支えたのは道具のコーディネートや維持管理を行う道具屋やそれぞれの素材毎の職人、修復士等です。
激動の時代を乗り 越えながら、料理屋周辺の「工芸」がどのように変化をしてきたのか、様々な食の風景の中に存 在する工芸と、工芸作家だけではない、工芸の流れの1つを紹介致します。
浅田久太
( あさだ・きゅうた )
金沢市生まれ 。1995年、株式会社浅田屋入社。店長、総支配人などを経て 2012年代表取締役社長に就任、浅田屋16代目となる。「 金沢市料理業組合 」会長、「 金沢市旅館ホテル協同組合 」理事長なども務める。
石黒太朗 (いしぐろ・たろう )
金沢市生まれ。株式会社石黒商 店 4 代目代表。主に古美術や茶道具、近代工芸や地元と縁のある作家作品などを取り扱う。金沢美術商協同組合理事( 株 )金沢美術倶楽部専務ほかに従事。
聞き手:
土屋兵衞(金城樓)
趣膳食彩 vol.1前編「浅田久太(浅田屋) × 石黒太朗(石黒商店)」はこちら
料理屋に受け継がれる道具
土屋:
代々のお道具が蓄積されることが、金沢の老舗の強みですよね。自分 で主体的に「 うちにはこんなお道具が あります 」と宣伝していくことはない ですが、金沢において「 工芸の歴史が積み重なっていく場所 」であるということを若い人たち、海外の人たちに発信していく必要があるとは思います。
浅田 :
昔ある雑誌が「料亭のお宝拝見 」という記事をやりたいと言ってき た事はあるんですが、「うちにこんな良いものがありますよ」という体で は言わないですよね。商工会議所の100 年以上続く老舗による「 金澤老舗百年會 」の企画では展示等で出すことがあるくらい。
土屋 :
それは料理屋さんだけじゃな く、金沢の 100 年企業が昔から持ってるものや商売道具を展示するから出せるというところもありますよね。自慢らしくやらずに…というところが難しい。
石黒 :
「金澤老舗百年會」の浅田屋さんの出品は、リストの中から女将さん と私で大体選んで浅田さんに最終確認をしてもらって…いつも季節のうつわ や掛け軸を紹介しています。
浅田:
本当に、いつもありがとうございます。笑
お道具のことでいうと、料理長の引き継ぎがあった時、新しい料理長はみんな蔵の中のものを全部引っ張り出して写真を撮って、いつの季節に使うということをメモして「 うつわブック 」 のようなものを作ります。本当はそれに、作家名と年代と価格を入れたい。 スタッフに、それぞれの器がどのくらいの価値があるのかということをわ かっていて欲しいです。
料理屋・料理人が求める道具
浅田:
料理人の思いと作家さんの思いのすり合わせを誰かにしてほしいなと も思います。ふとした時に料理人が「 こ れ使いづらい 」と言うのを、作家さん に聞かせてあげたいです。それがクリ アになったら、もっと作家ものを料理屋で扱いやすくなるはずですし。
金沢は400年戦災に遭わず、その間いろんな職人さんを京都等から 招いて育てたというところが大きいですよね。うちの両親は大樋さんの湯飲みに福光屋さんのお酒をとってレンジでチンするんですよ。地元の人が聞くとどよめいちゃうんですが、それが金沢。 日常的に 「使う」「 壊す」「作る」 が金沢の工芸の基本になると思ってます。
土屋:
戦後はお料理屋さんがお道具屋 さんのメインの客層だったのが、今はどちらかというとお茶人さん。作家たちも茶道具を作るようになってきています。 料理屋について、それぞれのお料理屋さんの中がどうなってるのか、必要な器はどういうものかはとくに今の作家はなかなかわからないんでしょうね。
浅田:
そうですね。料理屋は広間ベースで考えるので、うつわはまずある程度数がほしいです。 も揃う古いものはなかなかないので、 が二つあった ら交互に使うなどしています。今の作家で 、揃いのものを作ろうという人はなかなかいない。 以前、クラフトビジネス創造機構の新木さんが若手作家を連れて懐石料理の流れを知ってもらうという勉強会を 石亭でやってくださいました。出てくるうつわを都度料理長が説明して、最 後に食器庫に案内し、どう保管されているかというバックヤードツアーも込み で。作家には「 こういう料理に出すから蓋付が良いんですね 」とか「 縁がこ うなっているとわれやすい 」とかいう ことを実際見てもらいました。
石黒:
いい取り組みですね。
浅田:
そういったうつわの話で言うと、九谷焼には特別にこだわっているわけではないです。
土屋:
確かに、全般的に九谷の割合は 多くないかもしれない。お料理を盛り 付けるのが九谷は難しいんですよね。 実は色絵より、青磁、粉引、京焼などの色が使いやすいですし。
浅田:
料理人の思いと作家さんの思い のすり合わせを誰かにしてほしいなと も思います。ふとした時に料理人が「 これ使いづらい 」と言うのを、作家さんに聞かせてあげたいです。それがクリアになったら、もっと作家ものを料理屋で扱いやすくなるはずですし。
新しいお料理屋さんが絶対手に入らないものって『 歴史 』なんですよね。中には、古いアンティークのものを和食の中に上手く取り入れているところもあります。新しくお店を始めるお料理 屋さんがそういったお店をお手本にして、最終的に石黒さんのようなお道具屋さんで買う、という工芸のもつ時の流れがあると良いなと思います。
[浅田屋]金沢市十間町23 asadaya.co.jp/ryokan
[石黒商店]金沢市十間町53 ishiguroshouten.jp