KOGEIマガジンVol.10 村本真吾さん
市民がボランティアライターとなり作家やアーティストに取材を行う「KOGEIマガジン」第10回目の今回は、「工芸建築」展に参加の漆造形作家・村本真吾さん。村本さんの作品に対する熱意や工芸に対する考えを聞いてきました。
文章:谷口華奈(金沢21世紀工芸祭ボランティアライター)
村本真吾(むらもと・しんご)
1970年白山市生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科漆芸を修了し金沢卯辰山工芸工房で研修を行う。ギャラリーを中心に個展、展覧会多数開催。近年はイタリア、スイス、モナコなどアートフェアを中心に海外で発表、韓国、シンガポールなどコミッションワークも行う。フィラデルフィア美術館、ミネアポリス美術館など収蔵多数。
―作品制作に込める思い
幼少期を白山で過ごした村本さんは、上京したとき、自然の少なさを感じたといいます。どうすれば、都会で自然を取り入れることが出来るのか。村本さんの作品の「共存」や「共生」というテーマはここから生まれました。実際に、村本さんの作る作品は羽のようにも葉のようにも見え、昆虫が自然の中に溶け込む「擬態」を表現しています。「人間はどのように自然と共存できるのか、を見る人にも考えてみてほしい」と感じているからだそうです。
―素材との出会い
漆造形家の村本さんの作品には、漆はなくてはならない存在です。そんな漆との出会いは大学一年の頃。塗り重ねていく工程のなかで、徐々に変化していく漆に生命力を感じ、漆器としてではなく、素材としての漆に魅了されました。何度も塗り重ねていき、最終的な色になる直前の、みずみずしい状態の漆が好きなのだそう。また、生命力が強い竹にも漆との共通点を感じ、竹を使用した作品を作り始めました。竹を思うように活かせるようになるために、東京で竹工芸をしている職人さんのところへ通い詰めていたこともあるそうです。古くから使われ、日本の文化に根付いている漆と竹。「日本にはもともと、自然や素材を大切にする文化があり、自分も素材の魅力を引き出して、どのように伝えるかを大切にしている。技術が素材の魅力より前に出るようにしたくはない」ということが作品づくりのこだわりなのだと教えてくださいました。
村本さんの作品「LeafⅠ」
Four Seasons Hotel Seoul内設置 撮影:岡村喜知郎
―村本さんの考える「工芸建築」
「建築も工芸も、自然素材を使用して人間の手で作るという共通点があり、もともと似通ったもの。しかし建築は低コスト・短期生産を追求した果てに、量産性の工業素材を使うようになっていき、両者は離れていった」と村本さん。「工芸建築」展では、「1/Fのゆらぎ」という作品を展示されます。「機械で作ったものは100%完全だけれど、人の手で作ったものは絶対に矛盾を生じる。そこで偶然性と必然性をうまく融合させることが大切。自然素材は、木目が規則的であったとしても必ずゆがみがあり、人はそこに安らぎやあたたかみを感じる」のだと語ります。建築のなかにそのような「癒し」をどのように設けていくか、ということが「工芸建築」の主題だと考えているそうです。
村本さんにお話をお伺いするなかで、自然に合わせて生きていくという日本ならではの文化を改めて考えさせられました。村本さんはこれからも、自然の魅力を取り入れながら作品を作っていかれるのでしょう。
現在開催中の「工芸建築」展では、村本さんが制作された作品「1/Fのゆらぎ」のほか、さまざまな工芸作家・建築家の作品を展示中です。ぜひご来場ください。