KOGEIマガジンVol.11 友高博之さん
KOGEIマガジン第11回目の今回は、「金沢アートスペースリンク」に参加するTHE ROOM BEROWに出展している画家、友高博之さんです。近年は、主な発表の場を石川県内で設けており、ここ10年の間に金沢は特に面白くなってきていると感じているそう。作品を完成させるために何十回と「study」を重ねるという友高さん。作品を描くにあたっての「態度」や「姿勢」について、静かに、そして熱くお話しして下さいました。
文章:浜田りえ(金沢21世紀工芸祭ボランティアライター)
友高博之(ともたか・ひろゆき)
1968 福井県生まれ
1989 東京造形大学美術学部彫刻科 入学
1994 東京造形大学 卒業
―忘れられないものがモチーフになる
友高さんの普段の作品は、10点程度の絵画で構成されています。今回、展示されている作品の一枚は、ある衝撃的な殺人事件がモチーフになっており、特に印象の強い場面を切り取ったもの。作品を見る側の人間性を問われているような鋭さがあります。
もちろん、殺人事件のような衝撃的なモチーフが採用されるばかりではありません。今年4月に発表された個展「HITOGATA」では、1976年に舞踏家土方巽によって上演された作品「ひとがた」をモチーフに選んでいます。さまざまな「人を形づくる条件」を描いた作品群でした。最近はギリシャ神話を読んでいて、スフィンクスをまずは描いてみた、と茶目っ気にお話しされる友高さん。いずれにせよ、激しく衝撃を受けた出来事などが、作品のモチーフとなることが多く、本当に描かなくてはいけないと強く感じたものを選ばれているそうです。
―個性は重要視しない
こう問われたとします。「カレーとラーメンなら夕飯にどちらを選ぶか?」カレーかラーメン。しかし、夕飯のメニューは世界にこのふたつだけではない。自らが選んだ答えも「誘導」されていると気づくことができます。
作家やアーティストといわれると、作品に自分の考えや個性を投影していると思いがちですが、友高さんからは「僕は自分の個性も重要視していない」と意外な答えが返ってきました。個々が紡ぎ出す言葉も、そうした誘導や外部から得た情報の蓄積なのではないかと捉えているのだそうです。
動物の絵も、野菜が置かれた静物画も、こちらを向く精悍な顔つきも、ある情報を得る前後で、作品は印象や意味が劇的に変わってくる。そうした感覚を友高さんは大切と考えています。
―描かないものを描きたい
英和辞書によれば「study」とは「習作、試作、スケッチ」とのこと。今回の展示では実際に友高さんが描いた何枚もの「study」も併せて見ることができます。同じモチーフと思しき風景や人物の顔、日常の場面の繰り返し。それらを拝見して、色の選択や絵の具の置き方によって少しずつ変化し、昇華されていくようすから「人間の思考」の日々の変化そのものが感じられます。
一般的な「習作」は、練習のために作られる作品のこと。良く描けているところをピックアップし、習得した要素を描き完成に近づけていくのですが、友高さんが理想としているのは「study」を重ねていくなかで「無くしたものを描いていく」こと。
描きながら零れ落ちてしまったものを最終的に描く。「study」とは「それ」を描くためでなく、「それ」を描かないために行うものであり、「描きたいもの」は「描かないもの」なのだそうです。表現とは、何かを何かに置き換えることであるからこそ、隠しても出てきてしまう「それ」が本質ではないかと考える友高さん。その高潔な姿勢は、まるで修行僧の佇まいのようにも感じられました。
11月26日(日)まで開催される「金沢アートスペースリンク」は、金沢市内のギャラリーをはじめとするアートスペースをつなぎ、巡ることで、それぞれの魅力をよりみなさんにお伝えする活動です。期間中、金沢アートグミでは、各スペースから推薦のあった作家や作品によるアートフェアを開催しています。特に11月24日(金)は特別に、夜間延長され¥500で日本酒×お菓子セットもお楽しみいただけます。ぜひ、ご来場ください。
イベント詳細はこちらから
http://21c-kogei.jp/contents/kanazawa-art-space-link/id/2035