KOGEIマガジンVol.12 半田濃史さん

「KOGEIマガジン」第12回目の今回は、「工芸回廊」と「趣膳食彩」に参加の陶芸家・半田濃史さん。半田さん自身も以前に通われており、現在は管理人をしているという九谷焼技術者自立支援工房を訪れ、石川県に移住したきっかけや制作活動についてお聞きしました。
文章:大和絵里加(AMD)

半田濃史(はんだ・あつし)
神奈川県出身。石川県立九谷焼技術研修所 研究科 修了。伝統的な文様や線や面での技法を用い、それを窯の中で変化させることにより、伝統を模索し制作している。

—兼六園に魅せられて石川県へ

シンガポール育ちの帰国子女である半田さんは、幼い頃から日本の伝統文化に憧れを抱いていました。30歳になる頃、以前から興味を持っていた焼きものを勉強しようと一念発起し、石川県に移住してきたのだそうです。日本には、有田焼や備前焼など伝統的な焼きものの技術を継承している地方は数多くありますが、半田さんが選んだのは石川県。「日本三名園(※)を周ったとき、兼六園が一番かっこよかった。お土産で九谷焼の酒器をもらったこともあるのですが、吉田屋風の、黄色や紫が入り混じった毒々しい色彩が強く印象に残っていました」と半田さん。石川・金沢ならではの美意識に魅了されたのだといいます。

そして九谷焼技術研究所を修了後、卯辰山工芸工房を経たのち、現在は県の嘱託職員として九谷焼技術者自立支援工房の管理人をしながら制作活動を行っています。

※日本三名園…兼六園(金沢市)、後楽園(岡山市)、偕楽園(水戸市)の総称。

 

—変化する伝統文様の面白さ

半田さんの作品制作のコンセプトは、伝統的な文様や線や面での技法を用い、それを窯の中で変化させること。素焼きの皿にコバルトが主成分の呉須で柄を描き、ガラスのうわぐすりをかけて焼成。通常より100度も高温な窯の中で動かすことにより、規則的な「七宝つなぎ」の柄が異なる模様になっていくのだそうです。「もちろん、食べていくためには売れるものをつくらないといけない。しかし、自分の表現したいことの手段としてそれが最適かということは常に考えています。そうでない場合は、普段の仕事のなかで新しいチャレンジをしていかなければいけないし、外からの仕事は最大のチャンスになる」と考えている半田さん。「趣膳食彩」では、金沢市堀川町のレストラン「Table 7 nana(テーブルナナ)」のシェフ・堀誉二三(ほり・たけふみ)さんとのコラボレーションを通して、初めての制作方法に挑戦したといいます。

 

—7つの波を越える 青のうつわ

11月11日(土)に行われた「趣膳食彩」の「日就月将」では、半田さんがこの日のために制作された器が使われました。「イベント以前に、堀さんにもろくろ体験をしていただきました。そのようすを見ていて、はっきりと言われたわけではないのだけれど、板状の器を求めているなと感じたのです。そして、『7つの海を越えていく』というレストランのネーミングコンセプトを汲んで制作しました」と半田さん。石膏でつくった土台に器の生地を押し当てることで、深い青の波模様が走る板状の器ができあがりました。

 

完成した器に「Table 7 nana」自慢の料理が盛られ、参加者たちは目と舌で楽しみました。

 

「日就月将」とは、日ごと、月ごとに進歩すること。「焼きものは地道な作業で、繰り返しのなかで気づくことが多い。その気づきを新しいものに昇華させながら海外に発信していきたい」と語る半田さんの制作活動をあらわしているかのような言葉です。日々の活動のなかで新たなチャレンジを重ね、幼い頃に憧れた伝統工芸の担い手として邁進する半田さんの今後に目が離せません。